偏愛喫茶店【カフェ・ラパン/上野広小路】
早く起きれた朝は、上野広小路の喫茶店「カフェ・ラパン」へ行きたい。この店には早起きが至福と思える、素敵なモーニングをいただくことができる。
早速お目当てのモーニングメニューの説明を…とその前に、このカフェ・ラパンを知った経緯について。
漫画家・志村貴子先生は、実は引っ越し好きというのはファンなら知っている話(かくいう私も引っ越しがほぼ趣味で、この共通点はファンとして嬉しい)。たくさんの猫を引き連れ、頻繁に住まいを変えているそうな。乱歩も引っ越し魔で有名だし、作家にはあまり珍しい話ではないのかもしれない。
その志村先生がそのまた昔上野に居を構えていたころ、原稿作業明けに朝のまぶしく静かな上野を歩き、燕湯でひとっ風呂。その後、このカフェ・ラパンで朝食を食べて帰るというルーティーンを時々行っていたそうなのである。
志村先生行きつけの喫茶店なら行くしかない。当時、上野で働いていた私は、始業前までの時間、ここで朝食を摂ろうとこの店へ行くに至ったのである。
案内された席に着くと、老舗らしい落ち着いた内装が目に入る。まるでコーヒーがじんわりとしみ込んだかのような、謎の淡い模様を描いているグレーのコンクリートの壁に、コーヒー色で統一された家具や床。コーヒーを淹れるところを間近で観察できる、大きくて立派なカウンター席や、昔ながらの駅のホームにありそうな木製の長いベンチ席も素敵である。
そして、上野の朝のやけに強く白い日差しが差し込みが、薄暗い店内の明度との差には少々目が眩み、店内全体をうすらぼんやりと、なんだか幻想的にも見せている。
店内の様子を目に収めたあとで、待ちに待った朝食が運ばれてくる。それが、白い大きなプレートに、サクサクであたたかいクロワッサンにサラダとヨーグルトが乗り、おいしいコーヒーまでがセットになったモーニングである。
つやっと光るクロワッサン。青々としたサラダ。純白のヨーグルト。みんな、上野のまぶしい朝日を受けて一層きらきらと輝いて見えることだろう。
クロワッサンをつまみながら、ぼーっと考え事をしたり、読書をしたり、新聞を読んだり、朝風呂を終えさっぱりとした顔で燕湯から出てくる人を眺めたり。上野と御徒町駅前から路地を進み、喧騒から少し離れた立地。この店で思い思いの朝の時間を過ごせば、毎度ありきたりな表現ではあるけれど、やっぱりいい一日になりそうな気がしてくるから不思議だ。よい朝食はよい一日を作るのかもしれない。
最後に訪れたのは数年前なのでその当時の記憶だが、600~700円かそこらのお手頃な価格で、目にも舌にも豪華な朝食にありつけることも嬉しい。
朝が苦手な私は何度かモーニングチャレンジに失敗し、代わりにランチを楽しんだ。ランチの大きなプレートで提供されるサンドイッチとコーヒーも絶品であったが、そうして多少の苦労を経てありつけた朝食はより格別であったと、時々思い出す。
早起き苦手人間の喫茶店モーニングには、そうしたいくつもの幸福感と達成感をもたらすのだ。
上野には美術館や博物館があるから、予定の前に朝の腹ごしらえをして向かうのも、いい一日のプランではないだろうか。また、店内入ってすぐのガラスケースには、手作りのおいしそうなケーキがいつも数種類並んでいるので、午後のひとときの休息場所としてももちろんおすすめだ。私もまだ食べたことのない、ここに紹介していないおいしいメニューはまだまだたくさんある、堀りがいのある店なのだ。
場所は、時に長蛇の待機列ができるほど人気の和菓子カフェ「うさぎや」のすぐそば。うさぎとラパン…、関係はあるのかないのか、どちらも人気店であるのは間違いない。
カフェ・ラパン、大好きだからこそこれ以上あんまり人には教えたくない気もする、上野広小路の喫茶店である。
〔HP〕 カフェ・ラパン